9月8日 ”ソラフェニブとIFN+5FU動注の比較試験”記念日
太平洋に昇る朝日です。
今日”ソラフェニブとIFN+5FU動注の比較試験”がスタートして、初めての患者さんが登録されました。比較試験とは何か?という質問に答えるためにまずガイドラインとエビデンスについて説明したいと思います。
厚生労働省の支援の下、幕内雅敏先生(元 東大外科教授 現 日赤医療センター院長)が中心となり、肝癌治療の道しるべとなる「肝癌診療ガイドライン」が作成されました。
肝癌診療ガイドライン
診療ガイドラインは、肝機能と腫瘍の状態によって、個々の患者さんに推奨される最善の治療法が提供されるように作成されています。その根拠となるのがエビデンスと呼ばれる質の高い臨床研究です。例えば動注化学療法が本当に予後を改善するのか?これを証明するためには、ある基準を満たした患者群を無作為に2群に分けて、片方は動注化学療法を行い、もう片方は対症療法(症状に応じた治療で積極的ながん治療は行わない)を行い、この2群を比較して統計学的に有意差が無ければ有効な治療と認められないのです。ただし本邦は、国民皆保険であり国民は平等に治療を受けられる制度になっています。がん治療に対して、片方が化学療法、もう片方は積極的な治療はしないという無作為比較を行うことに躊躇していました。私たち医者は、なんとなく良さそうな治療を提供し、患者さんはそれを受け入れる、そういう土壌が出来てしまったと思うのです。本来は新しい治療を導入するためには、必ず比較試験を行い、有効性と安全性を証明して初めて導入されるべきなのです。肝癌の特に抗がん剤の分野では、この証明が曖昧だったため、海外において動注化学療法は未だ認知されていないのが実情です。
しかし5月からソラフェニブ(ネクサバール)が使えるようになりました。この薬は肝癌の抗がん剤で唯一、質の高い臨床試験において対症療法と比較し予後改善の有効性が証明された薬です。そこで私たちは従来本邦で行われてきた動注化学療法とソラフェニブを比較し、その安全性と有効性を証明することにしました。患者さんとともに、本邦の進行肝癌の医療を進歩させていきたいと思います。